serial experiments lain カウンセリング(Cou)
[ゲーム]
■■SiteA Level08 ■Cou021 [玲音] あてはめると、なにになるの? [柊子] そうね。 影響妄想っていって、なにかに影響されているって感じる妄想かな。 ラジオやテレビや携帯電話に影響を受ける妄想。 加えて、その影響で皮膚を触れれる、なでられる、電気が走るとか、体に感じる幻覚を同時に起こすことがあるの。 玲音はなにかに触られてるって感じたことがあるって言ってたよね? [玲音] うん。 [柊子] 妄想じゃなくても、セネストパチーって病気も実際にあるし。 そう、それから玲音は自分が自分でないような気がするって言ってたわね。 それは虚無妄想といって、自分が空虚で存在しない、世界も存在しないと思う妄想にも当てはまるわ。 これは、自己を過小評価することから来る妄想ね。 [玲音] 自己を過小評価? [柊子] 自分のことをなんてつまらない人間なんだとか、悲観的に考えることよ。 さっきの被害妄想も、同じ種類の妄想なの。 [玲音] いっぱい病気なんだ、私。 [柊子] まだあるわ。 [玲音] もういいよ。 [柊子] 心気妄想っていって、自分に特別な病気があるって信じる妄想。 自分が病気だと思っちゃう病気なの、ほんとは病気じゃないのに。 先生はね、玲音の問題の多くは、これじゃないかって思うの。 [玲音] ほんとは、病気じゃない病気? [柊子] そう。 自分に自信がなくて、ちょっとの不安が怖い夢といっしょになって病気って思い込んでる。 [玲音] 治るの? [柊子] そうよ、だってほんとは病気じゃないもの。 ごめんね、おどかしちゃって。 でもね、中途半端な知識で考えると、精神医学はどうにでもとれちゃうのよ。 病気にできちゃうの。 たいていの人は、本人や周りの人が普通に生活できなくて困ってお医者さんに来るから、病気として治療するの。 そのときにどうやって治したらいいかを判断するための基準でもあるの。 だから、玲音のように普通に生活できている人は、病院に行かなかったら病気にはならないの。 ■■SiteA Level09 ■Cou022 [玲音] 病院に来たから病気になったの? [柊子] そうね。 でも玲音は生活できるけど、困ってるよね。 それをなくすのは、カウンセラーの仕事でもあるの。 [玲音] 柊子さんは、カウンセラーなの? 前はお医者さんだって。 [柊子] 私はどちらの資格も持ってるの。 [玲音] なにが違うの? [柊子] 精神的な問題で困ってる人を助けるっていう点で、本質的にはなにも違わないわ。 ただ、資格や治療方法が違ってるだけ。 だけど、それぞれ長所や短所があって、もうちょっとお互いのやり方を尊重しあえて、いっしょに治療できたらいいかなって思うの。 そう思って、先生は両方の資格を取ったの。 [玲音] 今は、私と会うときはどっち? [柊子] カウンセラーよ。 玲音の場合はそれがいいって思ったの。 [玲音] 私、精神病じゃないの? 私が見えるあれは、幻覚なんだって。 [柊子] 確かに病気でそういった幻覚や妄想の症状が起こることはあるわ。 でも、これは直感だけど、玲音はそんな感じしないわ。 [玲音] 私、気にしすぎ? [柊子] ひょっとしたらそうかもね。 見えすぎたり聞こえすぎたりすることが、玲音にストレスを与えてるのかもしれないわ。 [玲音] どうすればいいの、柊子さん [柊子] 気にしないでっていっても、気になるものね。 [玲音] でももう気になってないよ。 慣れてきた。 でも、あれは慣れない。 [柊子] あれって? [玲音] 私が今の私じゃないの。 [柊子] どんな玲音なの? [玲音] 私なの、その人も。 [柊子] どうしてそう思うの? [玲音] よくわからない。 柊子さんは、自分が自分だと思えないことってない? [柊子] あとから考えると、私なに考えてたんだろうってあるけど、そのときに自分じゃないって感じたことはないな。 玲音は、自分がふたりいるって思うの? [玲音] 違う。 私は私で、そうじゃないの。 [柊子] 不思議ね。 でも玲音がそう感じるなら、それはそうなのよ。 間違ってなんかいないのよ。 [玲音] でも、普通じゃない。 ■Cou023 [柊子] 玲音は普通にあこがれてるのね。 [玲音] たぶん。 [柊子] 私はうらやましいわ。 人間の感覚なんていいかげんなもので、そう感じたら思う込んじゃうものなのよ。 私が私であるなんて絶対に説明できないことでしょ。 でもそのことに疑問を持てるって、それはそれで特別な能力なのよ。 [玲音] いらないよ、そんなの。 [柊子] そうね、今はいらないってい気持ちが強いと思うの。 でも、それがきっと玲音にとっていいことも起こしてくれると思うのよ。 よくわからないけど。 それも含めて玲音なんだって、自分で思えるようになったとき、きっと玲音の役に立つと思うわ。 [玲音] 私はこのまま? [柊子] わからないわ。 自然に変わっていくかもしれないし、このままもう怖い夢を見ないかも。 そしたら、玲音は普通のこと変わらないわ。 [玲音] でも治ったかわからない。 いつ、また見るかもしれない。 [柊子] そうね、でもこれからは違うわ。 [玲音] 違うって? [柊子] 玲音はひとりじゃないってこと。 先生に言ってくれれば、先生が相談に乗れるってこと。 [玲音] そうだね、柊子さん。 ■■SiteA Level10 ■Cou024 [玲音] おはよう、柊子さん。 [柊子] おはよう。 調子はどう? 元気にしてた? [玲音] うん。 先月、なんかいろいろ柊子さんに聞いて、なんとなくだけど楽な気分になれたの。 [柊子] そう、よかったわ。 本当はああいう話をするのはいけないってされてることなの。 よけいに憶測して、取り返しのつかない状態になるケースも実際にあるのよ。 [玲音] 取り返しのつかない? [柊子] うん。 病気が悪化しちゃったり、ひどいときには、自分を傷つけたり。 [玲音] 自殺? [柊子] まあ、最悪のケースだけどね。 [玲音] 私、死にたくない。 [柊子] もちろんよ。 玲音はそんな状態なんかほど遠いわ。 でも、人は精神的に病んでしまうと、私たちと別な価値観で動いてしまうことがあるの。 [玲音] 別な価値観? [柊子] 命を失うことや体を傷つけることに恐怖を感じなくなったり、逆にそれが自分にとってすごくいいことだって思い込んじゃうの。 そんなの理解できないでしょ? [玲音] 私は怖い。 [柊子] ほら、玲音は私といっしょでしょ。 普通なのよ、それが。 [玲音] うん。 ■Cou025 [柊子] あれからはなにか見えたりとか、聞こえたりした? [玲音] ないよ。 [柊子] やっぱりね。 気の持ちようなのよ、玲音。 たぶんもう見えないって思うけど、また見えてもがっかりしないで。 ゆっくり治せばいいの。 [玲音] まだ治らないの? [柊子] わからないわ。 玲音が初めてそうなったのは、いくつのときからなの? [玲音] 11歳のとき。 [柊子] じゃあ、もう1年以上にもなるのね。 その間に何回ぐらいそうなったの? [玲音] 憶えてない。 いっぱい。 [柊子] こういうのって、突然明らかな原因がなくても、急に見なくなったりするの。 ただ、見なくなったからって安心しちゃうと、また見えたりするケースもあるのよ。 必ずしもそうなるとは言えないけどね。 だから見なくなっても、しばらくは今までどおり通ってもらったりしてるの。 ねえ、玲音はもうここには来たくない? [玲音] そんなことないよ。 柊子さんに会いたいって思うことあるもの。 [柊子] ありがとう。 そしたら問題ないわね。 なんにも問題ないけど、しばらくはちゃんと先生のところに来るって約束してね [玲音] うん。 そのかわり、いろいろ教えてほしいの。 [柊子] なに、宿題とか? いいわよ、こう見えても先生は一応、中学では学年でもトップクラスだったんだから。 でも、国語はちょっとだめかな。 [玲音] 違うの。 先生のお仕事のこと、もっと知りたいの。 だめ? [柊子] うーん、あんまりよくないんだけど。 まあ、でも玲音が興味持ってるんなら、いいかな。 興味のあることを追求するのが、正しい勉強でもあるしね。 でも学校の勉強もちゃんとしないとだめよ。 それが約束できるなら、先生は教えてもいいけど。 [玲音] うん、約束する。 [柊子] うそついたら... [玲音][柊子] 針千本。 ■Cou026 [玲音] 先生はカウンセラーで、精神科医なんだよね? 精神科医って精神病を治す人でいいの? [柊子] そうね、簡単に言えば心のお医者さんね。 前にも言ったけど、精神病って概念は結構難しいの。 [玲音] 精神病って、ほんとはどんな病気なの? [柊子] おおざっぱに言えば、なにかの原因で心が病んでしまって、通常の生活が送れなくなったり、困ってしまう病気かな。 [玲音] なにかの原因? たとえば? [柊子] いっぱいあるけど、ひとつは心の問題。 家庭環境や生活環境の問題でおかしくなることもあるし、突発的な精神的ショックでなることもあるわ。 そう、たとえば大事にしていたペットが死んじゃったりして、そうなるケースだってあるわ。 それと、体のどこかの障害が元で発病することもあるの。 単純に事故とかの外傷でそうなったり、お酒の飲み過ぎで脳の機能がおかしくなったりね。 [玲音] アルコール中毒? [柊子] そう、さすがね。 お酒を飲んでばかりいると、血液中にアルコールがいっぱいになるの。 ほら、酔っぱらいのおじさんってふらふらしてるでしょ。 あれはアルコールのせいで、体の器官がマヒしてるの。 [玲音] でも、普通の人はならないんだよね? [柊子] そんなことないわ。 アルコールが体から抜けるには24時間ぐらいかかるの。 毎日飲んでいたら、1年中アルコール漬けの体になるわ。 ずーっとマヒしてると感覚そのものがおかしくなるの。 具体的には脳の組織が機能しなくなったり。 [玲音] 怖いね。 [柊子] 怖いことよ。 でも先生も時々、お酒を飲むの。 [玲音] 危なくない? [柊子] たぶんね。 タバコとかもそうだけど、お酒を飲んで騒ぐってストレスを解消するのよ。 ストレスが解消されることは、体にとってすごく大事なことなの。 [玲音] ストレスって、よくわからない。 [柊子] 昔、玲音はここに来るのがいやだったよね? [玲音] うん。 [柊子] そのいやな気持ちを与えることを、ストレスっていうの。 なくなってよかったでしょ? [玲音] うん。 他に病気の種類は? [柊子] ちょっと待ってね。 なんかしゃべりすぎてのどが渇いちゃった。 ■Cou027 [柊子] ねえ、前から聞きたかったんだけど、玲音はどうしてそういう髪型にしているの? [玲音] 変、だよね? [柊子] ううん、すごく似合ってるし、かっこいいわ。 中学とかではやってるの? [玲音] 違う、私だけ。 [柊子] 玲音はみんなと同じに、普通になりたいって言ってたわよね。 なんでそうしてるの? [玲音] 右から入ってくるの... 多分、それで左から出ていくの... だから... [柊子] そう、そうしていると落ち着けるからなの。 おまじないみたいなものね。 先生も昔やってたなあ。 [玲音] 柊子さんも? [柊子] うん、髪型とかじゃないけど。 ウサギの足のペンダントがあってね、それを持ってると幸せになれるって信じて、カバンにぶらさげてたの。 冷静に考えたらすごく不気味なことよね。 あんな愛らしい動物の足をカバンにぶらさげて歩いてたなんて。 でもそれを信じることで、助かっていたって気もするんだ。 [玲音] おまじない。 [柊子] うん。 でも玲音はすごく似合ってるわ。 玲音が普通の髪型になったら、そのほうが玲音らしくないかもよ。 そのままにしておいたほうが、きっといいわ。 ■■SiteA Level11 ■Cou028 [柊子] 神経症も知ってるの? すごいわね、玲音。 今度は玲音にカウンセリングしてもらおうかな。 [玲音] 言葉だけだよ。 意味なんてよくわからない。 [柊子] どんなイメージ? [玲音] 神経が変になって、おかしくなる病気? [柊子] うん、いい線いってるね。 [玲音] ひどい、先生。 もう教えてくれないの? [柊子] ううん、違うのよ。 本当にいい線いってるの。 本当は神経症って体の原因がなくて、なにかを怖がったり、なにかに脅迫されているような気がすることで、ストレスを感じて病気になっちゃうものなの。 [玲音] 心の中だけの病気? [柊子] 昔はそう考えられていたの。 でも研究してみたら、自律神経系の不安定が伴うことが多くて...だから、体の中の神経がおかしくなっているんじゃないかって考えもあるの。 体にも影響が出るものを心身症って言って区別していたんだけど、そうじゃないって定義されていたはずの神経症も、実は体に関係していたってわかってきたの。 [玲音] 心身症って? [柊子] あんまりいっぱい聞くと頭がパンクしちゃうわよ。 ほら、ストレスでやせちゃったり、頭にハゲができちゃったりって聞いたことない? あれのことよ...玲音、まさか [玲音] 違うよ、そんなのないよ。 [柊子] よかった、口は災いの元ね。 ■Cou029 [玲音] 病名って、だれが決めるの? [柊子] それぞれのお医者さんね。 ただ、一応の基準はあるのよ。 ICDやDSMっていう国際基準があって、ある程度、こういう症状のときはきっとこんな病気だろうって。 玲音が思ってるように、心の中はもともとよくわからないものだから、毎年のようにいろんな報告があって、少しでも診断に役立てるようにデータが集められて分類されていってるの。 [玲音] わからない? 先生でも? [柊子] 本当のところ、先生たちにもまったくわからないことばかりなの。 たとえばあるケースにおいて、以前こうしたら治ったからその方法をとろうとか、結構経験的なものだったりするの。 [玲音] 治るかどうかもわからないのに? [柊子] そう、治るかどうかなんてわからないの。 ただ、こうしたら治ったとか、こうしたら危険が少ないとか、そういうことでしかないケースが大半なの。 でもね、患者さんにとってもだけど、基本的に治ることが大事で、そのメカニズムを調べることは別の研究なのよ。 [玲音] そうなんだ。 すべてわかってしまえばいいのにね。 ■■SiteA Level12 ■Cou030 [柊子] 玲音って、子どもの頃の思い出で記憶に残ってることってある? [玲音] 記憶? 記録? [柊子] 記憶と記録は違うわ。 そんなに難しく考えないで。 ほら、夏休みにどこかに旅行したとか。 [玲音] 旅行なんてしたことないよ。 [柊子] ごめんなさい。 そうね、先生も両親が共働きだったから、子どもの頃は旅行に連れて行ってもらえなくて、学校で他の子たちがどこに行ったとか夏休みの話をしてるといやだったわ [玲音] 記憶は、記録とどう違うの? [柊子] うーん。 医学的に言うとね、記録は単純にいつなにをどこでどうしたっていうデータでしょ。 記憶はその個人が体験したことが記銘され、頭の中に保持されて、もう一度呼び起こされるものって定義なの。 こんな話、玲音にはつまらないでしょ。 [玲音] ううん。 それで、記憶って脳にどう入っているの? [柊子] どう? うーん。 ちょっと難しい話になっちゃうけど、大丈夫? ■Cou031 [柊子] 記憶といっても、いくつか種類があってね。 まず、玲音が玲音である記憶。 ほら、遺伝って言葉知ってるでしょ。 玲音はこんな顔でこんな体型の子って。 それは、分子レベルで記録されているの。 脳以外でも体のあちこちになんらかの痕跡があって記録されてるの。 それとね、体が傷ついたら血が出て、しばらくするとかさぶたになるでしょ。 それも細胞の組織の中に記録されていることが再生されるの。 あとはね、訓練すると運動選手とか無意識に体が先に動くっていうじゃない。 それも、体が記憶してるってことなの。 [玲音] 記録を再生すれば、記憶なの? [柊子] そうとも言えるけど、そうじゃないこともあるわね。 人間っていいかげんでしょ。 先生も子どものときのことってしっかりとは憶えてないわ。 家族で楽しかった思い出も、ひょっとしたら他の人は楽しくなかったかもしれない。 その瞬間の受け取り方の問題もあるし、勘違いして記憶されているかもしれない。 ただ、その人の中では正確な記録として存在しているの。 たとえば、久しぶりにあったお友達を見ると、昔の印象に残っている断片なできごとだけ、すぐに思い出せることってあるでしょ。 それは自分の中の記憶を結びつけて再生することもできるからなの。 [玲音] 結びつかないと病気なの [柊子] そうね。 記憶障害っていって、その記憶が自分のものでなくなっちゃったり、たった今したことが思い出せなかったり、過去に体験したことの時間的配列が狂ってしまって、それを自分でおかしくないように作り話でごまかしちゃったりするの。 人間って複雑な生き物だから、そういうことも起こるの。 ほら、テレビドラマでおじいちゃんがぼけちゃってとか見たことあるでしょ。 人間である以上、しかたのないことでもあるのよ。 [玲音] しかたがないこと? [柊子] 玲音が病気とかそういうことじゃないのよ。 人間だから、しかたがないことってあるでしょ。 人間は空は飛べないでしょう。 [玲音] 脳や体の中に記憶があるの? [柊子] 基本的にはまだまだわかってないことも多いけど。 そうだな。 人間の脳ってね、いろんな物質で構成されているの。 記録されると、その物質になんらかの変化があって、それが記憶の元になるの。 [玲音] わかんない。 [柊子] そうね、もっと大きくなって高校や大学へ行ったら勉強できるわ。 でも、興味を持つことはいいことよ。 ただ、玲音はたぶん病気なんかじゃないから。 [玲音] 私、私の記憶が自分じゃない気がする。 [柊子] そういうこともあるわ。 もちろん先生にだって。 [玲音] 私なのに、でもそれ以外はなにも思い出せない。 [柊子] 忘れてるだけよ。 言ったでしょ、玲音。 人間なんていいかげんなものなの。 都合のいいように思ってたり、忘れたりして思いこんでしまう生き物なの。 それが普通なのよ。 [玲音] 普通? [柊子] そう、玲音は気にしすぎ。 普通のことよ。 ■■SiteA Level13 ■Cou032 [柊子] 玲音の名前ってR.D.レインから取ったのかなあ。 まさかね。 [玲音] R.D.レイン? [柊子] 人の名前。 イギリスの精神科のお医者さんで、ちょっと変わった人なの。 翻訳されてる本のタイトルがおもしろいわよ。 「好き?好き?大好き?」っていうの。 [玲音] 好き好き大好き? [柊子] 先生も大学のときに読んだんで、もううろ覚えだけど。 たしかね、恋人同士の男の人と女の人がいて、女の人が男の人に私のこと好き?って聞くの。 [玲音] それで? [柊子] もちろん恋人だから好き好きって言うのよ。 でも彼女は満足しなくて、もっともっと質問してくるの。 [玲音] よくわからない。 [柊子] そうねえ。 じゃあ、玲音は先生のこと好き? [玲音] うん、好き。 [柊子] お父さんよりも? お母さんよりも? [玲音] うん。 [柊子] うれしいなあ。 ほんと? [玲音] ほんとだよ。 [柊子] じゃあ、玲音は私といると幸せ? [玲音] よくわからないけど、たぶんそうだと思う。 [柊子] 玲音は私と話をするの好き? [玲音] うん。 [柊子] 私のどこが好き? [玲音] 優しいところと、玲音の話を聞いてくれるところ。 [柊子] 優しいのと話を聞いてくれるの、どっちが好き? [玲音] どっちか? [柊子] そう、どっちか。 [玲音] 優しいから好き。 [柊子] 優しいって、どういうことが玲音に優しいの? [玲音] 怒らないし、親切だから。 [柊子] でも玲音に怒らない人もいっぱいいるわ。 玲音に親切にしてくれる人も、私の他にいるでしょ? ほんとに玲音は私のこと好きなの? [玲音] よくわからなくなっちゃった。 そんなに考えなくちゃいけないの? もうやめようよ。 私、なんだか先生のこと嫌いになっちゃいそう。 ■Cou033 [柊子] ごめんなさい、ちょっと説明ついでにやってみたの。 先生も玲音のこと大好きよ。 理由なんかどうでもいいの。 玲音といっしょに話ができることが先生はうれしいの。 ただそれだけ。 それは、でも、先生の一方的な思いなの。 玲音には関係がありそうで関係ないの。 先生は、そう思ってる自分がわかるだけでいいの。 それ以上は結局、わからないことでしょ? 玲音が先生のこと、先生と同じように好きかなんて。 玲音の心の中を、先生は見られないんだから。 [玲音] なんだか、さびしくなっちゃった [柊子] ごめんなさいね。 でもそんなものだって解釈もあるの。 でも、私のこと好きって言ってくれる玲音に、私は喜びを感じるのよ。 玲音は先生に好きって言われて、うれしい? [玲音] うん、うれしい。 [柊子] そう、それだけでいいの。 先生は、玲音を大事な友達だって思ってるの。 玲音のことをすべてわかることは不可能なのよ。 玲音も先生のこと全部わからないでしょ。 もしすべてわかってしまったら、先生は玲音で、玲音は先生になっちゃうでしょ。 つまり同じ人間になっちゃったら、玲音が玲音でいる必要がなくなっちゃうでしょ。 先生は、わからないことがいっぱいあっても、玲音が好きなの。 [玲音] よくわからない玲音がすき? [柊子] そうね、よくわからない玲音も好きね。 それは全部じゃないの。 [玲音] 私は、先生のこと全部わかりたい。 [柊子] それは先生もいっしょよ。 でも不可能なのよ。 [玲音] 不可能? [柊子] そう。 だって自分がなんであるかもわからないもの。 玲音に説明したくてもできないわ。 玲音は玲音で私は私。 でもね、玲音と私が同じ人間になっても、だめかもしれない。 [玲音] 同じ人間? [柊子] そう。 玲音と私が全く同じ人間。 同じものが見えて、同じ考え方をして、同じ行動を取る。 見た目もなにもかもいっしょ。 そしたら、私と玲音がいることは、私って認識しかないでしょ。 でもそれさえもなくなっちゃうの。 玲音が玲音だと思っちゃうと、先生は存在できないのよ。 先生が先生だって思ったら、玲音はいなくなっちゃうの。 だからふたりが同時にわかり合えることは不可能なの。 [玲音] でも、先生は玲音が聞いたら、説明してくれるよ? それでもだめ? [柊子] うん。 でも全部じゃないわよね。 全部答えるには長い時間が必要だし、答えは常に変わっていくこともあるじゃない。 昨日はこう思ってたんだけど今日はこう思う、とか。 [玲音] 結局、だめなんだね。 [柊子] そうね。 玲音の中に先生が入ってしまって、いつでも答えられればいいんだけど。 ■■SiteA Level15 ■Cou034 [柊子] 学校は楽しい? [玲音] うん、すごく楽しいよ。 [柊子] なにが楽しい? [玲音] お友達と話したり、いっしょに遊んだりするのが。 [柊子] よかったね、学校が楽しいっていいよね。 [玲音] 先生は、楽しくなかった? [柊子] うん。 一時期、先生は友達が少なくて、学校がつまらなかった人なんだ。 玲音も友達がいなくなったらさびしいでしょ? [玲音] うん。 ごめんなさい。 [柊子] なんで? [玲音] いやなこと思い出したでしょ? [柊子] そうね、あんまりいい思い出じゃないわ。 でもいいの。 後悔してないって言ったらうそにななっちゃうけど、今こういう仕事をしてるのも、そういうことがいい経験になってるのかもしれないし。 [玲音] いい経験? [柊子] 先生はお勉強をして、たとえば学校に行きたくない人の心理構造を解析したりするの。 自分がそうだった頃の経験が役に立つこともあるわ。 [玲音] 難しい。 [柊子] ごめんなさい。 玲音にはちょっと難しいよね。 ごめん、先生ったら仕事のことになると、つい周りが見えなくなっちゃうの。 先生失格だね。 他の話しようよ。 そう、お友達はどんな人? [玲音] 明るくて仲良くしてくれる。 いっしょにいると楽しい。 [柊子] 名前はなんていうの? [玲音] ミサトちゃん。 [柊子] ふーん、ミサトちゃんか。 いつもどんな遊びしてるの? [玲音] ミサトちゃんのおうちに行ったりして、本をいっしょに本を読んだり。 ミサトちゃんのバイオリン聞いたり。 [柊子] そう、バイオリンができるんだ、すごいなあ。 いい友達ね。 よかったら今度、いっしょにここに連れてきてもいいよ。 [玲音] でも、はずかしがりやだから、だめだよ。 [柊子] え? はずかしがりや? [玲音] たぶん。 聞いてみる。 でも、たぶんいやだって言うと思うの。 [柊子] 残念だな。 ■■SiteA Level16 ■Cou035 [玲音] 柊子さん、デジャブって病気じゃないよね? [柊子] ええ それとは逆に、普段見慣れた風景を初めて見たって感じることもあるけど、どっちもそれを見たからって病気とはいえないわね。 ごく普通の人でも感情の状態によっては見ることがあるものよ。 [玲音] よかった。 ちょっと安心した。 [柊子] 玲音はそれを感じたときって、他にどんな感じがした? [玲音] なんとなく、時間が変な感じで、早いのか遅いのか、よくわからない気がする。 [柊子] 現実っていうか、普段の生活って感じはある? [玲音] そういう気もするけど、よく考えると違うような。 やっぱり違うと思う。 [柊子] なんかぼんやりって感じ? ぴんとこないとか。 [玲音] うん、なんかちょっと違うって。 自分の家で遊んでるって認識してるのに、なんか私の家じゃなかったり、見たこともないような公園で遊んでいても、そこがどこかわからないけど、でも私にとってはいつもの自分の遊び場のような。 [柊子] 不思議ね。 玲音はそこにいるときは落ち着く? それともいやな感じがする? [玲音] わからない。 でも、私は笑っていた。 [柊子] 自分じゃなくて、私が? [玲音] うまく言えないけど、たぶん、私なの。 [柊子] そのとき、自分はどこにいるって思った? [玲音] どこだろう。 ただ見ていただけだったから、それは... [柊子] だから、どこからそれを見ていたの? ほら、普通に地面に立ってるとか、空中から見えたとか。 [玲音] わからない。 まるでビデオを見ているように、私が映ってた。 [柊子] 玲音、大丈夫? あんまり無理に考えなくていいのよ。 ごめんなさい。 先生つい聞いちゃうのね。 今日はもう終わりにしよう、ね? [玲音] 専門用語でなんていうの、こういうこと? [柊子] ほら、もうやめましょ。 [玲音] 知りたいの、私のこと。 [柊子] じゃあ、今日の最後の授業ね。 専門的な言葉で言うと、知覚のソカクっていって自分が感じているのとは違って、まるで他人が経験したことみたいに感じることよ。 [玲音] 病気、だよね? [柊子] 離人症って自分が自分と感じられない病気の症状ではあるけど。 玲音、あなたはきっと違うはずだから、へんな心配しないで。 [玲音] 違うって証明できない。 [柊子] でも、もうそれが玲音を苦しめたりしてないわ。 だから病気じゃないわ。 やっぱりこんなことしちゃいけなかったわね。 玲音を不安がらせるだけだよね。 先生、失敗しちゃった。 [玲音] 違うよ。 柊子さんは、柊子さんは悪くないの。 私が無理やり聞いたんだから。 私、それでもいろいろ勉強したいの。 柊子さんみたいになりたいの。 [柊子] 玲音... ■■SiteA Level20 ■Cou036 [玲音] 自我って、自分を感じることだよね [柊子] そうね。 でも専門的にいうと、自分自身として体験され、私として認識される人格の一部なの。 わかる? [玲音] わからない。 [柊子] 玲音って人格があるとするよね。 その構造的な要素のひとつとして自我はあるの。 言葉の問題になっちゃうけど、自己って言うと自分のすべてをさすわよね。 自我は、その中で経験したことが私の経験だったと認識する、人格の要素のひとつなの。 自分を自分だと思うことって言ったらなんとなくわかる? [玲音] 最後はわかるけど。 でも、まだわからない。 [柊子] いいよ、正直で。 ねえ、玲音って子はいろんな面を持ってるでしょ? 優しかったり、さびしがりやだったり。 そういう人格の中のひとつっていう解釈なの。 [玲音] なんとなく、わかってきた。 [柊子] たとえば、今日朝起きたときの玲音と、今ここにいる玲音は、同じ玲音だよね? [玲音] うん。 [柊子] 明日の玲音もきっと同じ玲音だよね。 [玲音] そうだと思う。 [柊子] つまり、継続して自分が存在しているって認識できたり、それが間違いなく自分であると確認できることって、自我の働きなの。 それが働かないと... [玲音] それが働かないと? [柊子] 医学的には同一性障害っていうわ。 それと、自分が自分じゃないって思うのは単一性障害っていうの。 なんとなく病気っぽいでしょ? でもね、玲音ぐらいの年の子って、まだ自我が未完成なの。 だんだん自分ってものができてきて、はっきりしてくるものなの。 [玲音] そう思うのは、錯覚してるってこと? [柊子] そう思い込んでしまっているだけのことが多いわね。 ■■SiteA Level21 ■Cou037 [玲音] もし私が病気だったら、柊子さんはどんなふうに治そうって思うの? [柊子] 病気だったら? [玲音] もし、だよ? [柊子] そうね。 玲音はまだ小さいし、この程度の症状だったら薬物療法はまずないわね。 お薬で治すってことよ。 [玲音] なんでお薬で治しちゃいけないの? [柊子] 玲音には自分で治す力がちゃんとあるのに、他の力で治しちゃうと、治そうって力がさぼっちゃったりするからなの。 それと、子どものうちからそういう薬はあまり飲まないほうがいいのよ。 [玲音] じゃあ、どうするの? [柊子] そうだなあ。 精神療法っていって、いまみたいにお話ししていって治すかな。 [玲音] 話すだけ? [柊子] 難しいんだけど、たとえばアルコール中毒の人とかを治療するプログラムで、今までどんな飲酒をしてきたかみんなに発表したり、他の人の話しを聞いたりするものがあるの。 集団精神療法っていって、先生はあんまり好きじゃないなあ。 [玲音] なんで嫌いなの? [柊子] みんなから説得されて自分を取り戻す人間なんて、どうせまた同じ目にあうと思うの。 一時の勢いで回復した気になるけど、ひとりになったときにはまた同じことを繰り返してしまう。 先生はそんな人を見てきたの。 [玲音] じゃあ、どうするの? [柊子] 私は、玲音とこうしているように、1対1で面と向かって話しを聞くかな。 [玲音] それで? [柊子] それで、患者さんに自分のことを考えてもらうの。 非指示的精神療法っていって、特に指示はしないで、中立的な立場でそれを分析するの。 そうした作業をしていくと、患者さんが自分のどこがいけないんだって認識できて、自分で治していくことができるから。 それができるようになったら、もう治っているのよ。 [玲音] ほんとにそれで治るの? なんか、簡単だね。 [柊子] そう、簡単なことなんだけど、でも実際はもっと複雑でそう簡単にいかないものよ。 [玲音] 簡単にいかないもの? [柊子] (あくび) ごめんなさい。 ちょっと睡眠足りなくて。 [玲音] 先生疲れてるんだね。 少しゆっくり眠ったほうがいいんじゃない。 ■■SiteA Level22 ■Cou038 [玲音] 頭がおかしくなるのって、ほんとにどこかおかしくなるの? [柊子] 頭だけが身体的な原因になるわけじゃないけど、脳はとても大事だし、脳の障害が原因でいろんな病気が起こるらしいってことはわかってるの。 [玲音] 脳の障害って、なにかが壊れてしまうの? [柊子] 人間の脳ってすごく複雑にできていて、まだまだわからないことがたくさんあるんだけど、ある程度の機能をどこでどうやってしてるかが、多少はわかってるのよ。 [玲音] 記憶が海馬にあるって。 [柊子] そう。 そんなふうに前頭葉や後頭葉なんていう大まかな区切りに、それぞれ機能が分散されて処理されているってわかってるの。 化学物質が脳の中にあって、それが変化することでいろんな情報が取り交わされているの。 [玲音] それが壊れちゃうの? [柊子] 壊れたりすることもあるし、化学変化したり情報を受け取るために必要な物質がちゃんと出なかったりすると障害が起きるの。 この脳の気質的病変に基づく精神障害のことを、脳器質精神症候群っていうの。 難しくてわからないよね? [玲音] わかるよ。 それを調べるために、脳波検査したりCTスキャンするんだから。 [柊子] 学校でもうそんなこと習うの? それとも独学? [玲音] こないだネットで調べたの。 私も1回検査したし、興味があったの。 [柊子] ねえ、玲音。 じゃあ、もう先生と話さなくても大丈夫じゃない。 [玲音] そんなことないよ。 柊子さんの話はすごく勉強になるの。 本みたいな情報じゃないもの。 [柊子] ごめんなさい、なんか具合が悪くて。 [玲音] この研究所も、脳の研究してるんでしょ? [柊子] そうね。 [玲音] どんな研究? [柊子] 先生は専門外だし、こことは棟が違うの。 だからあんまりくわしくないわ。 [玲音] でも、ネットで公開されていたよ。 いろんな研究の項目が... [柊子] ねえ、お願い、玲音。 今日は先生具合が悪いの もう、今日は終わりにできないかしら。 [玲音] ごめんなさい、柊子さん。 ■■SiteB Level05 ■Cou039 [玲音] 柊子さんの研究って、なんの研究なの? [柊子] 研究って? 私はまだ研究なんて... [玲音] でもここは研究所なんでしょ? [柊子] 先生はまだ見習いだから、自分の研究はこれからなの。 [玲音] もう3年近くも経つのに? [柊子] え? なんでそんなこと? [玲音] 先生が教えてくれたんだよ、自分で。 [柊子] そうだったっけ? ごめんなさい。 なんだか、この頃調子が悪くて。 今日も質問は少なめにしてほしいわ。 じゃなければ、あんまり話さなくてすむ話とか。 [玲音] 先生、疲れてるんだね。 少し、ゆっくり眠ったほうがいいんじゃない? [柊子] 疲れてる? そう見えるかしら。 そうね、こんな格好だし。 [玲音] かわいそうな柊子さん。 雑用ばっかりで、自分の研究ができなくて。 [柊子] 私はもう雑用なんかしてないわ。 ごめなさい、なに私ってばこんな声あげて。 おどろいちゃうよね。 [玲音] なにかあったの? 柊子さん? [柊子] なにもないわ。 [玲音] 雑用ばっかりで自分の研究ができなくてつらいの? [柊子] どうしてそんなこと。 [玲音] この研究所のホームページに、研究員のリストと発表された論文が一覧で。 でも、柊子さんだけが... [柊子] そうよ、私はここに来てから論文を出してないわ。 でももうすぐよ。 [玲音] もう大丈夫だものね。 自分の研究の時間が取れるから? [柊子] どういうこと、玲音? どういう意味? [玲音] それに私は研究対象外なんでしょ? だから柊子さんの役に立てない。 もう、終わりにしてもいいよ。 もう見えないから。 私は、時間の無駄だもの。 [柊子] 玲音、ねえ玲音、私はあなたを妹だと思ってるわ。 ただ話すだけでいいのって私が言ったのよ。 あなたを迷惑だなんて思ってないわ。 それに... [玲音] 柊子さんが気にすることはないと思う。 だって、自殺なんだから。 [柊子] なんでそんなこと知ってるの? [玲音] 新聞で読んだから。 それと、ここの掲示板で。 [柊子] そう、そうだよね。 [玲音] 柊子さんの研究って。 [柊子] 前に話したと思うけど、カウンセリングと精神科医の立場を使って、新しい治療のシステムを研究することよ。 でも、これじゃどっちも失格よね。 [玲音] どうしてなの? [柊子] 私のほうがなんだか精神的に不安定になっちゃって、さっきあんなに... ごめんなさい。 [玲音] 柊子さん、大丈夫? ■■SiteB Level05 ■Cou040 [玲音] 柊子さん? [柊子] おはよう。 ごめんなさい。 昨日も徹夜で論文用の資料探したりしてて、こんなにちらかっちゃって。 ちょっと待っててね。 [玲音] 私、帰ったほうがいいかな? [柊子] 大丈夫、心配しないで。 紅茶も切れちゃってる。 [玲音] 私、紅茶買ってくる。 [柊子] ありがとう、でも気持ちだけでいいわ。 さあ座って。 先生もちょうど休憩しなきゃって思ってたから。 [玲音] 忙しいの? [柊子] ちょっとね。 高島教授があんなことになっちゃったから、その分の作業もしなくちゃいけないの。 それに、新しいクライアントも増えるし。 [玲音] 研究のできる? [柊子] 玲音、そんなに気を使わないで。 新しい室長が来るまでちょっと大変だけど、すごくやりがいがあるの。 今は、仕事のことだけ考えているのが幸せなの。 [玲音] さびしくない? [柊子] 玲音もきっといつかわかるわ。 仕事が充実するって、本当にすばらしいことよ。 [玲音] 私にはたぶん、わからない。 そんなことよりも。 [柊子] そんなことよりって、なに? 玲音にもなんか楽しいことあったの? [玲音] うん、すべてがうまくいきそうなの。 [柊子] なにが? [玲音] 私のこと。 ■■SiteB Level06 ■Cou041 [柊子] ねえ玲音。 確認したいんだけど、あなたが前に話していた友達って、なんて名前だったっけ? [玲音] キョウコちゃん。 [柊子] ああ、そう。 キョウコちゃんと、あともうひとり。 [玲音] ミサトちゃん? [柊子] そう、ミサトちゃんって言ったわよね。 [玲音] なんでそんなことを聞くの? [柊子] いいの、気にしなくて。 玲音のレポートをまとめていたら、友人関係って欄があって、先生見直していたら自信がなくなっちゃったの。 それで、確認したかっただけ。 [玲音] そう。 ミサトちゃんもカルテに載るの? [柊子] ううん名前だけよ、深い意味はないわ。 そんなことよりもミサトちゃんって近所なの? [玲音] そう。 近所だけど歩いてはいけない。 [柊子] 車で行かないといけない? [玲音] うん。 ミサトちゃんのうちに行くときは、いつもお父さんかお母さんに車で送ってもらうの。 [柊子] お父さんは今なにしてるの? [玲音] お仕事で出張に行ったり、戻ってきてもあんまり家にいないよ。 [柊子] 忙しいんだね。 お父さんは優しい? [玲音] 優しいよ。 出張に行くたびに、おみやげ買ってくれるの。 [柊子] よかったね、玲音。 ■Cou042 [柊子] ねえ玲音、本当のことを言ってほしいの。 [玲音] 本当のこと? [柊子] あなたには、ミサトちゃんなんて友達いないよね? [玲音] どうしたの? おかしな柊子さん。 [柊子] キョウコちゃんに聞いたのよ。 [玲音] それで? [柊子] そうしたら、そんな子いないって。 ミナコの間違いじゃないかって。 [玲音] 柊子さんはそう信じるのね? [柊子] あなたを疑ってるわけじゃないの。 これは大事なことなの。 [玲音] レポートを書くために? [柊子] それは否定しないわ。 でもあなた自身のためでもあるの。 [玲音] 私自身のため? [柊子] そう。 架空の友達を作り上げて自分の世界に閉じこもっているなんて、それは病気よ。 [玲音] 子どもにはよくあることで、ぜんぜん悪いことなんかじゃないって言ってたよ、柊子さん。 それに、ミサトちゃんは空想の友達なんかじゃないよ [柊子] じゃあどこにいるの? 今電話できる? 先生の前で電話してごらんなさいよ。 [玲音] 連絡は取れないの。 もう引越しちゃったから。 [柊子] 彼女の存在を証明することができる? [玲音] 彼女の存在? [柊子] そう、彼女がいたって事実よ。 [玲音] 私の記録。 [柊子] いいわ、ねえ玲音。 あなたを信じたいけど、私にはあなたの記憶は覗けないの。 ■Cou043 [玲音] 記憶じゃなくて記録だよ。 [柊子] そうね、記録なら記憶ほどあいまいじゃないわね。 でも、そんな言葉遊びをしてる場合じゃないの。 [玲音] 柊子さんも繋がればわかるのに。 [柊子] 繋がるってどこに? ねえ玲音、あなたはミサトちゃんが存在しているって言うけど、それはあなた以外証明できないことよ。 それを他の人に理解されると思う? それがおかしいっていうことなのよ。 だれも信じないわ。 [玲音] 柊子さんも? [柊子] 残念だけど、信じられないわ。 それは、私が自分が調べた上で事実を認識しているから。 それがくつがえるような客観的な証拠を出してもらえるなら、話は別だけど。 [玲音] 存在は、どう認識されるべきなの? [柊子] どうって。 彼女がいるってみんなが認めて、その証拠、たとえば戸籍とかの記録とか、なによりも体を持って存在してるってことよ。 [玲音] 体がなかったら存在はなくなるの? [柊子] あたりまえよ。 それは幽霊だわ。 [玲音] じゃあ、高島教授は存在しなかった? [柊子] でも彼はいたわ。 死ぬ前に肉体を持って生活していたわ。 その形跡もあるし、彼のことを知っている人たちも生きているのよ。 [玲音] 彼の記録が残っている。 [柊子] もういいわ、玲音。 あなたと問答したくてここにこうしているわけじゃないの。 あなたを治療するためよ。 私は、ミサトちゃんの存在を認めないわ。 ■■SiteB Level07 ■Cou044 [柊子] この間はごめんね、玲音。 なんであんなに感情的になってしまったのか、自分でも反省してるの。 [玲音] いいよ、柊子さん。 [柊子] あのこと以外は、玲音は全く問題ないんだもんね。 ゆっくり調べていけばいいんだもの。 [玲音] 論文に間に合わなくない? [柊子] 玲音のことは論文には載せないわ。 他のクライアントで発表するわよ。 それに、そんなことあなたが気にすることじゃないわ。 玲音は優しいね。 [玲音] 優しくなんかないよ。 [柊子] それから、ごめんなさい。 すぐにでも謝らなくちゃいけなかったんだけど、勝手に調査みたいなことをして。 玲音のお友達に家庭教師ってうそをついて会って、玲音のこと聞いちゃったの。 レポートでも必要だし、本来はもっと事前にやるべきことだったんけど。 怒ってるの? ごめんなさい、でも玲音のため...違うよね、私の仕事のためだね ■Cou045 [玲音] 柊子さんはだれにあったの? [柊子] キョウコちゃんと、カオリちゃん。 [玲音] キョウコちゃんは知ってるけど、カオリちゃんって、だれ? [柊子] あなたのクラスメートよ。 まさかその子の存在を証明してとか言わないでね。 謝るから、そんな意地悪をしないで、玲音。 [玲音] 柊子さんは自信があるんだよね。 [柊子] なにに? [玲音] その人の存在に。 私は証明できない。 ■Cou046 [玲音] 柊子さんはこの頃忙しそうだね。 [柊子] うん、論文の締め切りが近いし、いつまでたっても後任が決まらなくって、先生が変わりにやってるから、ちょっとハードかな。 [玲音] つらい? [柊子] 大丈夫よ、玲音がそんなこと心配しなくていいの。 [玲音] 柊子さんが心配なの。 [柊子] 私が? ありがとう、その気持ちだけでいいわ。 [玲音] 柊子さん、私のこと好きでいてくれる? [柊子] もちろんよ。 だって玲音は私の大事な妹じゃない。 嫌いになる理由なんて。 [玲音] でも、私のことでいらだってる。 [柊子] 認めるわ。 それは、あなたがだんだん知識を身につけてきて、私と論議できるようになってきてぶつかったからよ。 でも、それはそれなの。 だからといって玲音を嫌いになることはないわ。 [玲音] 柊子さんは、玲音以外に大切な人はいる? [柊子] いるわ。 だって先生にも友達はいるもの。 玲音だって、私の他に大切な人はいっぱいいるでしょ? [玲音] うん。 でも、だれかひとりしか選べなかったら、だれを選ぶかって考えると、私は柊子さんなの。 [柊子] うれしいわ。 そしたら、私も玲音を選ぶわ。 [玲音] ほんとに? でも、いいの? 先生の大切な他の人たちは? [柊子] 玲音が選んでくれて私が他の人を選んだら、玲音は悲しむでしょ? 私は玲音を悲しませたくないの。 [玲音] 先生の恋人は、悲しまない? [柊子] え? そうね、悲しむでしょうね。 ねえ玲音、私のプライベートなことに興味があるの? [玲音] 柊子さんのこと知りたいって。 [柊子] 恋人の話しは秘密。 それに、まだ玲音にはちょっと早いわ。 [玲音] まだ、早い? [柊子] 玲音もこれから誰かに恋したりするかもしれないけど、恋愛って複雑なものなのよ。 [玲音] 複雑? [柊子] 私にだって迷いはあるのよ、普通の人間だから。 失敗もいっぱいするし、後悔もするし、今だってまだわからない気持ちが渦巻いてるの。 ね、複雑でしょ? [玲音] 複雑... ■■SiteB Level08 ■Cou047 [柊子] あなた玲音、よね? [玲音] そうよ、おかしな柊子さん。 [柊子] そうね、ちょっと先生、疲れてて変なのよ。 ばかなこと聞いてごめんなさい。 玲音は、この頃すごく元気ね。 [玲音] 私、変わってないよ? [柊子] このカウンセリングも始めてからずいぶん経ったね。 [玲音] ずいぶんって、多いっていう意味なの? 柊子さんの中では、過剰ってこと? [柊子] そうかもしれない。 あなたはどう思ってるの? [玲音] まだまだエリアは確保されてるから。 [柊子] なに言ってるの? 私にわからないことを言うのはやめて。 [玲音] どうしたの? 柊子さんはいらだってるの? 感情が制御できないの? [柊子] なんで私が。 ねえ、玲音は私をからかって遊んでるの? [玲音] 違うよ。 [柊子] これは玲音のためのカウンセリングなのよ? 私があなたを見るためのものよ? [玲音] でも話しをすればいいって。 私は柊子さんのことが知りたいから。 [柊子] あなたが私を知ってあなたのためになるの? それとも私に干渉したいだけ? [玲音] 柊子さんは本当は嫌だったの? [柊子] そうよ。 だからそっとしておいてほしいの。 私の中に入り込まないでほしいって、そう思ってる。 [玲音] ひとりじゃ、さびしいくせに? [柊子] ひとりじゃないわ。 私はあなたじゃないわ。 あなたは玲音なんでしょ。 おどおどしてて、さびしがりやで、自分に自信のない内気な女の子だったはずよ。 [玲音] 違ってるわ。 私のパーソナリティは、もっと別の表現が適切だと思うの。 [柊子] あなたはだれ? [玲音] 私は、玲音。 ■Cou048 [柊子] 今日は、すごく気分がよかったのよ。 [玲音] そうなんだ。 よかったね、柊子さん。 [柊子] でも、だんだんだめになってくるの。 なにが自分でも不安なのか、わからないけど。 [玲音] 潜在的な不安? なにか漠然としたもの? [柊子] 結構幸せなときって、その幸せが続くのか不安にならない? [玲音] それは、断続的な流れの中の、ひとつの肖像? [柊子] 幸せな自分が想像できないの。 [玲音] 不幸な自分は想像できる? [柊子] ないわね。 でも不安はぬぐえないわ。 [玲音] 私になにかできること? [柊子] そんな、あなたになにを求めるって? 私が、あなたに。 [玲音] プライドが許さない? [柊子] プライドとかそんなことは関係ないわ。 私はどうなってるっていうの? [玲音] 柊子さんは柊子さんのままだよ。 [柊子] そうよ。 さあ、もうレポートの準備しなくちゃ。 よかったら遊んでいってもいいのよ。 でも私は急がなくちゃいけないの。 [玲音] どうして? [柊子] 私は今が大事なの。 今しかないの。 これで研究が続けられる。 [玲音] それは幸せなこと? [柊子] そうよ、好きな研究を進めることは私の一番の望みよ。 [玲音] それが一番なんだね。 [柊子] 違うわ、ごめんなさい。 私のことも玲音のことも大事なはずだわ。 すべて並列にうまくいくことがベストなの。 そのための単なる順番だけだわ。 [玲音] よかった。 ■■SiteB Level09 ■Cou049 [柊子] なにか不安があるの? [玲音] 私はないよ。 柊子さんは? [柊子] 時々あるかな。 なにか嫌なことが起こりそうとか。 [玲音] 妄想気分なのね? [柊子] ええ、でも玲音のように知覚されたものにへんな妄想なんて抱かないわ。 [玲音] そうかなあ。 あの男の人に対して、思ってる気持ちや想像していることは、妄想じゃないの? [柊子] あの男の人ってだあれ? [玲音] 今柊子さんが頭に浮かべてる人。 [柊子] 玲音は私の想像してるものがわかるの? すごいね? 超能力者ってやつ? 私をからかうなんていたずら好きなのね。 [玲音] だって私、柊子さんと繋がってるんだもの。 [柊子] 繋がってる? どうやって? [玲音] たぶん、説明することに意味はないもの。 [柊子] そういうのを妄想着想って言うのよ、玲音。 自分が選ばれた特別な人間で、自分が神様であるとか信じてしまう、病気よ。 [玲音] 私は病気で、柊子さんは? [柊子] 私は病気なんかじゃないわ、私は。 ■Cou050 [玲音] 柊子さん、元気がないよ? [柊子] 疲れてるの。 [玲音] 雑用で嫌になったの? 誰かに、くだらないことをさせられてるって。 [柊子] そうね、そんな気もしないでもないわ。 [玲音] 作為思考ってやつ? それとも考想奪取? ひょっとして私からの考想干渉? [柊子] 私はなんのためにこうしているの? 私は自分の話してることをちゃんと認識してる? [玲音] 大丈夫だよ、柊子さん。 きっと明日になれば、また元通りになってるから。 [柊子] 元通りって? [玲音] 柊子さんが苦しまない世界。 [柊子] 玲音と話しているときとひとりでいるときと、どっちが自分なの? [玲音] どっちも柊子さんだよ。 私の存在を疑ってるときも。 [柊子] 私が玲音の存在を疑ってる? [玲音] そう、信じたくないって思ってる。 [柊子] あなたを調べることで私のなにが困るの? [玲音] 今の柊子さんに理解できない情報は、柊子さんの精神衛生上よくないの。 [柊子] 私に理解できない? でも私は知りたがることなのに。 [玲音] そう、全部知ることは今の柊子さんにはつらいことだわ。 [柊子] 玲音は、私のためを思ってくれてるのね。 [玲音] 当たり前だよ。 だって私、柊子さんが好きだもの。 ■■SiteB Level10 ■Cou051 [玲音] うわさ? 気になるの? だれかが柊子さんのうわさをしてる。 関係妄想? それとも、被害妄想? [柊子] そうね、自分に自信がないからかな。 どうして玲音はそんなに自信があるの? 病気なのに。 [玲音] 私、病気になれたんだ。 ねえ、なんて病名? 精神分裂病? サヴァン症候群? それともコルサコフ症候群による記憶障害? [柊子] 能動性自我意識の障害で、自我の同一性の障害で、過去のことや記憶が混乱していて、離人症で精神分裂病で....違うわ、仮病よ。 せいぜい虚無妄想気取り。 [玲音] じゃあ、病気じゃないの? [柊子] そうね、あなたなんか本当はいないのよ。 自分がここにいるって思ってるだけなのよ。 あなたの記録を見せられて、みんなだまされているの。 そう、だからみんなろくにあなたのことを憶えてないのね。 [玲音] いやみを言うなんて柊子さんらしくないよ。 でも、そういう人もいるかもね。 柊子さんはどっち? [柊子] 玲音がそう思い込んでるって思ってるわ。 妄想が妄想を作り出しているのよ。 慢性的な幻覚妄想状態なの。 自己像幻視も声が聞こえるのもすべて妄想よ。 [玲音] じゃあ、今ここにいる私は? [柊子] だから、×××××。 [玲音] まじめだね。 エリートだものね。 選ばれた人間。 [柊子] そうよ、私はがんばって今ここにいるのよ。 遊びたいのに我慢して勉強して試験に合格して、だから、本当はこんなことしてちゃいけないのよ。 [玲音] かわいそうな柊子さん。 ■■SiteB Level11 ■Cou052 [玲音] 柊子さん、大丈夫? [柊子] ええ、なんとかがんばれてるわ。 時々、不安定になるけど。 [玲音] 柊子さんは考えすぎだよ。 周りのことも、気にしすぎてるんだよ。 [柊子] 私は見栄っぱりだから。 仕事も、恋も。 [玲音] 恋愛って必要なこと? [柊子] 人生にとって、大事なことだと思うわ。 [玲音] 女の人には男の人が必要なの? [柊子] 女だからってそうじゃないわ。 そう言うなら男の人にも女の人が必要なはずよ。 [玲音] 男の人がいなくちゃだめなんて脅迫観念だよ、柊子さん。 ひとりで生きていけるよ、柊子さんなら。 [柊子] でも、さびしくない? わたしはさびしさに耐えられない人間なの。 玲音は? 玲音はどうなの? [玲音] 私も、さびしがりやだよ。 ■■SiteB Level12 ■Cou053 [玲音] なんにもしたくないの? 研究は? [柊子] もうだれも私の論文なんて読んでくれないわ。 [玲音] どうしたの? 被害者意識なんて、柊子さんらしくないよ? [柊子] 私らしい? 私ってなに? [玲音] 柊子さんは柊子さんだよ。 [柊子] 私は切り離されたの。 もう社会と繋がってないのよ。 [玲音] そんなことないよ。 私は柊子さんと繋がっている。 私は社会と繋がっている。 だから柊子さんも繋がっているのよ。 [柊子] 私はおかしいんでしょ? あなたと話しているときと、普段の生活が別なのよ。 玲音の基準で私の生活を見ると矛盾が生じるの。 [玲音] 基準? 価値観? [柊子] あなたの価値観は、この世界をを否定してしまうわ。 [玲音] そんなことはないよ。 だって私はこの世界と繋がっているんだもの。 [柊子] 私には耐えられない。 今この瞬間もとどめて置けないのよ? それだけじゃないの。 明日の記憶が、未来の記憶が混在しているの。 これは不安から来る妄想なの? 経験してはいけないことを経験しているの? [玲音] それは柊子さんじゃない? [柊子] 私なのよ、私だから。 [玲音] 柊子さんは柊子さんの思ったとおりにすればいいのに。 [柊子] その瞬間瞬間が矛盾していて、自我の単一性が保持できない。 [玲音] その瞬間だけの判断が柊子さんだよ。 あとは... [柊子] あとは? [玲音] ただのデータ。
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